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介護施設・デイサービスでネイルケアが注目される理由とは?

豊田紘史

近年、高齢化社会の進展とともに、介護現場では利用者のQOL(生活の質)向上を目指した新たな取り組みが注目を集めています。その中で特に脚光を浴びているのが「ネイルケア」。今回は、ネイルケア注目の理由や、通常のネイルとの違い、実際に導入する場合の注意点など、詳しく解説していきます。

ネイルケアに注目:4つの理由

①心理的な効果

ファッションやアートのイメージが強いネイルですが、実は、心理的な効果も高いといわれています。爪を美しく整えることで、清潔感や品のよさを感じさせるという見た目だけではなく、気持ちを落ち着かせたり、高揚させたりする心理的な効果が期待できます。

また、ネイルアートに関わる色の選択やデザインの決定は、認知機能の活性化に役立ちます。創造的な活動は脳を刺激し、認知症の予防にもつながることが示されています。

②健康維持やADL/QOL向上

ネイルケアを通じての、他のご利用者様や、施設スタッフ、施術者とのコミュニケーションや交流は、孤独感の軽減や社会的な支援の感じ方を向上させることができ、心理的な支えとなります。

また、高齢者は皮膚や爪が脆弱になりがちですが、定期的なネイルケアにより、爪とその周辺の清潔が保たれ、爪囲炎などの感染症のリスクを低減できます。清潔に保つことは感染症の予防につながります。

③ユマニチュードとの親和性

ユマニチュードは、特に高齢者や要介護者とのコミュニケーションにおいて、尊厳を重んじ、対象者の自尊心や自己決定を支持するケアのアプローチです。

ネイルケアはユマニチュードの理念と親和性が高く、優しいタッチや個々の尊重を通じて高齢者との信頼関係を築く手段となります。好みや選択を尊重し、コミュニケーションを促進することで、高齢者の自己表現を支援し、心身のリラクゼーションと満足感を向上させます。

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④要介護者の美容需要の増加

現在要介護状態に差し掛かる年齢層は、若い頃からファッションや美容、自己表現への関心が比較的高かった世代です。特に戦後生まれの「団塊の世代」以降は、女性のみならず男性においても、外見や身だしなみに積極的に投資してきた人々が多く存在します。この世代が高齢期に入り、介護が必要になっても、若い頃培った価値観や美意識を維持し続けようとする傾向が強まっています。その結果、「高齢化=美容への関心の減退」という従来の図式が崩れ、むしろ「高齢かつ要介護でも美容を求める」層が増えているのです。

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介護美容におけるネイルケア

介護美容におけるネイルケアは、一般的なネイルサロンでの施術と比べ、身体状況や生活環境に合わせた柔軟な対応が求められます。通常のサロンでは、施術時間が1〜2時間に及ぶことも珍しくありません。しかし、要介護者や高齢者の場合、体力や集中力に制限があるため、施術は10〜20分程度に短縮されることが多く、利用者の負担軽減が重視されます。

ネイルの仕上がりに関しても、豪華なジェルネイルや凝ったアートより、基本的な爪の整え・甘皮処理・保湿といったシンプルなケアに留めるのが一般的です。マニキュアはほんのり色づけする程度で、長時間の維持が必要なジェルネイルはほとんど使われません。

握力や関節の柔軟性を考慮し、座りやすい椅子やクッションを用いて楽な姿勢で施術を行い、工具や消耗品は肌や爪に優しいものを選択します。コミュニケーションも重要で、ゆっくりと声かけし、利用者の反応や気分を尊重しながらケアを進めることで、心身ともにリラックスできる時間を提供します。

ネイルケア導入事例

ネイルケア導入事例①

あるケアビューティストが、グループホームに定期訪問する事になり、ネイルケアを施していました。(※グループホームでは認知症の方が暮らしています。)
認知症の方の中には、他のご利用者様や職員とうまくコミュニケーションが取れずふさぎ込んでしまい、施設の課題となっている事も多いです。
その方は、ネイルに関しても最初は消極的でしたが、ケアビューティストが何度もお声がけをしたところ、一度ネイルケアをしてみる事になりました。
実際にケアをしてみると、本人から「ピンクにしてみたい」とのご要望があり、好きな色になった爪を見て大変喜ばれました。
その出来事をきっかけに、ほかのご利用者様ともネイルを見せ合ったりコミュニケーションをたくさん取れるようになり、笑顔も見られるようになりました。

ネイルケア導入事例②

あるご利用者様はデイサービスを利用していましたが、コロナ禍をきっかけに、なかなかデイサービスに行かなくなってしまいました。ご家族も大変心配していましたが、デイサービスで定期的にネイルの日を作り、ネイルケアを導入したところ「ネイルの日だけは絶対に行く!」と来てくれるようになり、これをきっかけに、美容の日以外にも来てくれるように。ネイルをした日はご家族に自主的に写真を送ったりなど、ご家族も大変喜ばれました。

ネイルケア導入の課題と注意点

介護施設・デイサービスでネイルケアを導入する際には、以下のような課題や注意点があります。

  • 施設内では介護業務が優先されるため、ネイルケアによるスケジュールや動線の混乱を避けるための配慮が求められます。業務時間やスタッフの配置を再調整し、通常の介護サービスの妨げとならないようにする必要があります。
  • ネイリストが高齢者介護に関する基本的な理解を欠いていると、皮膚・爪トラブル、誤った施術による不快感、精神的なストレスなどの問題が生じかねません。高齢者特有の身体的・心理的特性に対応するための知識・スキルが必須となります。
  • 十分な人員が確保できないと、業務負担の偏りや、十分なコミュニケーション・安全確認が行えない状況を招きます。介護施設やデイサービスで導入する場合は外部サービスへの依頼も検討すると良いでしょう。
  • 認知機能が低下している利用者は、ネイルツールや小物などを誤って口に入れる可能性があるため、使用物品の管理や施術環境の整備にも気を配らなければなりません。
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今後、ますます拡大する介護美容の需要

高齢化の進行に伴い、若い頃から美容への関心を抱いてきた世代が要介護世代へと移行することで、介護現場での美容需要は確実に増加すると考えられます。これまで「高齢者には美容は不要」とされがちだった風潮は変化し、「いつまでもキレイでいたい」という思いを持つ高齢者が増え続けています。その結果、ネイルケアにとどまらず、スキンケアやヘア・フェイシャルトリートメント、さらにはメイクアップなど、多面的な美容サービスへの期待が高まってきています。

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